豚骨醤油味噌ラーメン

いろいろ書きます。

『油淋鶏』でもよかったのに

ブログタイトルの話だ。『油淋鶏』でもよかったのに。

 

もう隠しようがないと思うが、わたしにはネーミングセンスがない。一切ない。

先日、満を辞して(っていうほどでもないけど)一本めの記事を書き、アップロードし、『豚骨醤油味噌ラーメン』という、「高熱にうなされていたんですか?」としか言いようのないタイトルをつけ、ババンと全世界に向けて大公開。黒歴史になる予感しかしないタイトルだが、公開して5分後にはもう後悔していた。

なにが『豚骨醤油味噌ラーメン』だ。

「これって、おしゃれでしょ」という路線を狙うのも恥ずかしければ、「普通」という選択肢を選ぶのも癪だという自意識がスケスケである。

 

「ネーミングセンスなさすぎ」と思いながら、昼食を食べるところを探していたんだけど、中華料理屋さんの赤い看板に書かれた白の文字のメニュー表をの前で立ち止まり、「油淋鶏でもよかったのにな」と思った。ブログタイトルの話だ。

油淋鶏って、最高に美味しいし、なんといっても「ちー」でおわるところが強烈にかわいい。「ゆー」で「りん」で「ちー」である。どこをとってもかわいい。

 

どの道センスはない。油淋鶏にもラーメンにも罪はない。

パンケーキにラー油をかけるような私のセンスのなさが問題なのだ。

 

「猫に名前をつけるのは難しい」という言葉を残したのは、詩人のTSエリオットだ。

あんまり大声では言えないが、どうしてこの言葉が彼の名言というかたちで残っているのか、わたしはよくわかってない。

「なんか、名言として残ってるわりにはインパクトのない言葉よなぁ」といつも思ってしまう。

もしかすると、この言葉に続く話のエピソード全体が重要なのかもしれないが、この言葉を使う人はだいたい「もちろんみなさまご存知でしょうが」という文脈で使うので、引用元が明記されていないことが多い。

 

むかしの文化的な人はみんなTSエリオットの著作を読んでいたのだろうか。わからないが、しょっちゅうそのセリフを目にしていると、だんだんと途方もなくかっこいい言葉のように思えてくる。

だいたい、TSエリオットって名前がまずかっこいい。

 

何度も読むうちにこの言葉をしっかり覚えたわたしは、うちの猫を飼い始めた時、「ここぞ」とばかりに夫に「猫の名前をつけるのは難しい」と引用してみた。

夫は「ねー、むずかしいよねー」とうわの空でスルーしていた。

当然と言えば当然のような気もする。

『TSエリオット』というクレジットに価値のあるような言葉だし、それが『by妻』なら日常会話だと思われても当然だ。

つくづく、どうしてこの言葉がこんなに有名になったのか知りたいものだと思う。

 

とにかくわたしは、タイトルなり名前なりをつけるセンスのある人が、しぬほどうらやましい。歯ぎしりしちゃう。

 

ちなみにわたしがこれまででもっとも「すごい」と思ったタイトルは、村上春樹さんの『回転木馬のデッドヒート』だ。

自分がタイトルをつけるたびに、そのタイトルがポンと頭の中に浮かび、落ち込んでしまう。比べるなんておこがましいと自分でも思うのだが、比べてしまうものは仕方がない。

 

回転木馬」って、メリーゴーランドのことでしょ。

あの、スローで、ゆっくりと動く馬たちは、いつも同じペースで進むし、場所が入れ替わることもない。

しかし、そのうちのひとつの馬を選び、乗ると、いつの間にか自分が前の馬を追いかけているような錯覚におちいる。それでも自分の乗った馬が、前の馬を追い抜くことはない。それが回転木馬という乗り物の運命だ。システムとは、そういうものだ。それでもわたしたちはしばしばその回転木馬の馬のひとつにまたがり、デッドヒートを繰り広げようとする。

本当は、回転木馬にデッドヒートなんてものはまずありえないのに。

 

村上春樹さんは常に「個人とシステム」について考え続けてきた作家だ。

超有名な「卵と壁」演説にも象徴されている。

知らない方のために、ざっくりと解説すると、2009年村上春樹さんはイスラエルの『エルサレム賞』を受賞した。

当時はイスラエルによるガザ侵攻が国際的に批判されていて、村上春樹さんはこの『エルサレム賞』を辞退すべきだと各方面から言われていた。もしも授賞式に向かうなら、不買運動を展開するとまで脅された。

しかし、村上春樹さんはイスラエルに向かい、そこで政権に対して批判的なスピーチを行う。

それが「卵と壁」演説だ。

 

「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」

 

壁とはシステムのことだ。そして卵とは、わたしたちひとりひとりの『個』のこと。

わたしたちは生きているうちに否応なくシステムの中にずぶずぶと飲み込まれ、自分でもよくわからないうちに何かとの戦いを繰り広げることがある。

 

村上春樹さんが小説を書く理由は、「個が持つ魂の尊厳を表に引き上げ、そこに光を当てること」だという。

 

わたしはこの『卵と壁』演説を読むと、いつも泣いてしまう。

 

それなのにわたしは、こうして村上春樹さんのつけるタイトルのセンスに嫉妬している。

なんてちっぽけな個だろうか。

 

とりあえず、『豚骨醤油味噌ラーメン』なんて看板は早々に隠してしまった方がいいような気がしている。