豚骨醤油味噌ラーメン

いろいろ書きます。

どこかにいる完璧なわたし

 

 

昔、わたしは健康オタクだった。

 

今から5年ほど前、わたしは法律事務所でフルタイムの正職員として働いていた。

事務所には15名の弁護士さんと、5名の正職員の事務員、それからパートさんが2名(メンバーは曜日によって変わる)いた。

5名のフルタイムの事務員のうち、2名は時短勤務で、人手はぜんぜん足りていなかった。

15名の弁護士さんにつき専属で事務員が付いているわけではないので、誰から指示が飛んでくるかわからない、先生によって仕事のこだわりは違う。

例えばA先生はこのやり方でいいけれど、B先生にそれをやるとこっぴどく叱られる、といったこだわりもある。そのこだわりも15名ぶん把握する。

そんな感じだった。

 

わたしはその頃、前職で勤めていた大学の教授から、「院生になって研究を一緒にやろう」と誘われたのを断っていたところで、挫折感やら悔しさやらで毎日フラストレーションを抱えていた。

 

その悔しさを解消するために、なにを思ったかわたしは司法試験の予備試験の勉強まで始めた。

予備試験とは、「その試験に合格すれば、法科大学院を修了していなくても司法試験を受けることができますよ」というものだ。

昔は司法試験にさえ合格すれば良かったが、15年ほど前に行われた司法制度改革で基本的には法科大学院を卒業して司法試験の受験資格を得なければならなくなったのだ。

 

朝4時に起きる。7時まで勉強する。

化粧をして、さっと部屋の掃除をして仕事に向かう。

仕事の前に、事務所に掃除機をかけて掃除する。

9時から19時頃までは仕事(もっと長引くこともある)。

それから帰って、夕食をつくり、22時から1時までは勉強。

 

というタイムスケジュールで生活していた。

 

どんなタイムスケジュールや。いま書きながら「ヒィ」って血の気が引いたわ。

 

それでも当時は、「もっとわたしに力があれば」、と思っていたし、「もっとわたしに時間があれば」、と毎日のように思っていた。

 

だんだん身体はボロボロになっていく。

集中力も散漫になっていく。でも、仕事はめちゃくちゃ集中力を要する仕事だ。

だって、裁判の申し立てのタイミング一本で依頼人の人生が左右するようなものもあるのだ。事務員がやることは、先生の用意したその申し立て書類が完璧に揃っているかを確かめ、先生の指示する期日にしっかりと裁判所に送り届けることだ。

書類の混入にも気を配らなければならないし、

幸い、事故は起こしたことはないが、それでもヒヤッとする場面はあった。

 

そんなわけで、わたしは「集中力を高めるサプリメント」を海外から取り寄せて飲んだり(アメリカのハーバードの大学生なんかが進級試験の前に飲むらしい。あっちの進級試験はすごく厳しい)、ただでさえタイムスケジュールはカツカツなのに家でヨガまでやっていた。

「糖質で頭がぼーっとする」という話を聞けば糖質を抜き、いっときはナッツと血糖値の上がらない果物だけを食べて生活していたこともある。

 

という流れで、わたしは突発性難聴を発症して仕事を辞めた。

 

突発性難聴くらいですんでよかったな、と思う。

それでもわたしは当時悔しくてたまらなかった。

なんて情けない。世の中には、もっと頑張ってる人もいるのに。

 

そのときわたしは、いつも「どこかにいる完璧なわたし」を目指していた。

今のわたしはわたしじゃない。もっと優れていて、もっと体力もあって、もっとがんばれるわたしが、未来のどこかにいるはずだ、と思っていた。

 

そうして、「今のわたし」を否定し続けて、叱り飛ばしていく生活は、ほとんど自分への虐待と変わらなかったよな、と思う。

 

そんなわたしはいま、「ツムツムのやりすぎで腱鞘炎になったかもしれない」なんて生活を送っている。

あの時のわたしが見たら、泡を吹いて倒れるかもしれない。